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ある伝説的隠居研究者の回想ブログ

ジャリルとカーン 最終章
 カーンは年頃の青年らしく、結婚相手に強い関心があり、日本の選択結婚を知ってからは、バングラディッシュに帰りたくない、研修終了後も留学生として日本に残りたいので、私に援助するよう何度も頼んだ。最後は諦めて帰国したが、本当に気の毒な気がした。日本にはこんな、全然気が付かない幸福もあるのである。帰国後、ローマ字で書いた日本語の礼状が来た。
 あれから二十五年。カーンは五十歳になっている。どんな結婚をしただろうか。ジャリルは生きているのだろうか?チッタゴンの錫の家は今も海辺に建って、タ映えに輝いているだろうか?
| ジャリルとカーン | 06:57 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 13
 カーンの、日本パキスタン文化比較論も面自かった。例えば、パキスタンは原則的に一○○パーセント見合い結婚の国である。男女別学で、女学生は黒いベールを被って通学しているが、それでも、男子学生と深刻な恋愛問題が発生するそうである。このカップルの結婚が成立するのは、まさに、命をかけた行動が必要なようで、江戸時代の悲恋物語を聞くようであった。最近は恋愛結婚も許されるようになり一○パーセントくらいになったかもしれないという。
 日本人のいう恋愛結婚や見合い結婚は、全部、選択結婚だというのがカーンの主張であった。そして、選択結婚こそ最高のパートナー選択のシステムだと絶賛し、日本人を羨ましがった。見合い結婚はアレンジド マリジメントと英語で表現するが、女牲が顔を見せることの無いイスラム圏では、当事者、全く、不在のがんじがらめが常識のようである。また、恋愛結婚とは親が全然協力しない結婚のようである。
| ジャリルとカーン | 07:52 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 12
 凄い金持ちだな、と言ったらジャリルの話が出た。ジャリルはカーンの従兄で、家はチッタゴンの海岸にあり、錫で出来た家だそうである。タ映えに輝くと夢の世界のように美しく、自分の家など問題にならないと話していた。東パキスタンの貧富の差は、想像を絶するものがある。
 あのジャリルは東パキスタンで、屈指の財閥の御曹司だったことが判った。初対面の時の、不敵な面構えを思い出した。ジャリルは日本から帰ると、すぐに、大勢の召使全員に退職金を払って解雇してしまい、若妻一人にして、これから食事洗濯掃除を、全部、自分でするように命じたそうである。日本に学べ、と大号令をかけて、家庭では推理小説を読むことしかしなかった、上流階級の妻君連中をあわてさせたそうである。その後、間もなく、独立戦争が始まり、ジャリルも戦争に参加して勇敢に戦ったが、独立後の状況は知らないということだった。
| ジャリルとカーン | 08:44 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 11
 最も効果があったのは、パーティの時にボーイに扮してVIPに近付き、持殊な細紐で、瞬間に頚を絞めて逃げる作戦だったそうである。VIPは何事もなかったように座っていて、皆が逃げ終わった頃に、突然、倒れて会場がパニックになった。二度か三度、成功したら、戦争が終わってしまったそうである。
 カーンも無傷で済んだわけではない。一万坪ほどの敷地にあった邸宅は、最初に軍隊の攻撃をうけて焼失した。英国留学をした医師の父親は、防戦中に重傷を受けて、焼けのこった納屋のようなところで母親と住んでいると言っていた。遊びに来れば、母は牛を一匹屠ると言っていた。これは、最大級の歓迎をするという意味である。
| ジャリルとカーン | 13:03 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 10
 カーンは独立戦争の時は、学生ゲリラ部隊の総指揮官をしていたようで、午前中は筆者が先生になって農薬の講義、午後はカーンが先生になって、ゲリラ戦やバングラディッシュの風俗習慣を請義することにした。
 独立戦争で最大の脅威は戦車だった。彼が指揮して戦車隊を無力化した話は、愉快だった。
 雨が降る前の闇夜に道路にこっそり砂糖黍を敷いて、その上にコールタールを厚く塗っておく。雨が降りはじめたら戦車隊に攻撃をかける。戦車が出てくると、砂糖黍を仕掛けた方向へ逃げる。道が濡れて光っているので、追い掛けてきた戦車はコールタールに気が付かない。キャタピラに砂糖黍を巻き込み全部動かなくなる。二度ほど成功したら、雨の夜は戦車も用心して出てこなくなった。次は戦車隊が止まっている所に忍び寄って、給油口から糖蜜や砂糖を入れる。成功したら攻撃をかける。戦車が動きだしたらしめたものエンジンが焼けて当分動かなくなる。この作戦は効果があったらしい。
| ジャリルとカーン | 07:57 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 9
バングラディッシュが独立して間もなく、関西研修センターから、また、一人、バングラディッシュ研修生が来た。カーンである。話は垢抜けしてセンスがあり、本当にバングラディッシュから来たのかと問い返したくなるようなシティボーイであった。頭も飛び抜けてよく、一ヶ月の研修で日本語を上手に操り、私の英語よりましだったので、会話は殆ど日本語だった。学生時代は、学力の全国的コンテストで何度もトップを取ったようであった。話好きで色々なことを話し合った。イスラムの人名には必ず神の名前が入っており、百種類ほどあるそうである。ジャリルもカーンも神様の名前らしい。

| ジャリルとカーン | 08:39 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 8
 研修の最終日に、春日出工場を案内した。通常の見学者には、観光コースと名付けた、新鋭設備ばかりのコースを案内することになっているが、ジャリルには、その頃未だ残っていた戦災の跡や、つぎはぎだらけの復興時のボロエ場を見せて、錆びたドラム缶に錆びたパイプを溶接して、磁石を使って金属を除去した頃の話をした。ジャリルの眼に涙が光ったようだった。
 二週間ほど経って、本社のビルのエレベーター前で、偶然ジャリルと会った。ジャリルは、突然、足許に脆いて挨拶した。周囲の人は怪誹な顔で見守った。これがジャリルを見た最後である。ジャリルが帰国して、しばらくして、バングラディッシュの独立戦争が始まった。
| ジャリルとカーン | 07:54 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 7
 研修は順調に進み、ジャリルは研究員に溶け込んだ。或る日、皆でボーリングに行く話が纏まってジャリルも誘われて男女の群れについて行った。翌朝、幹事役に聞いてみると、タ食はお好み焼き屋へ行ったそうである。お好み焼きには豚肉がつきものである。荒療治を頼んだわけでもないのに、部下は上司に似るものなのか。ジャリルにボーリングの感想を聞いたが、面白かった、と、屈託のない返事だった。豚肉は選り分けたらしいが、気にしている風はなかった。
 この頃になると、東パキスタンの発展を阻害している最大の要因は、「階級社会による情報断絶」と「女性の封じ込め」という筆者の持論を素直に聞くようになっていた。
| ジャリルとカーン | 09:57 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 6
 三時から終業時までのフリータイムは、手の空いている研究員と自由に話をしてもよいことにして、研究員に紹介した。ミックス語で、お互いに話が通じるようだった。
 その日の終業後、梅田まで同行して夕食に誘った。帰路を教える目的もあったが、その外に荒療治を考えていたのである。講義中の雑談で既婚者であることがわかったので、梅田で軽い夕食後、梅田ミュージックホールへ連れて行った。東京銀座の日劇ミュージックホールと、同じ趣向のヌードダンスをやっていた。一寸、薬が強すぎたかなと心配になり、横ばかり見ていたが、ジャリルは熱いため息をついて舞台を直視していた。イランにはベリーダンスがあるが、東パキスタンはどうだろうか。
| ジャリルとカーン | 07:57 | comments(0) | - | pookmark |
ジャリルとカーン 5
 翌日十時きっかりに、ジャリルは、替え上着スタイルで出勤して来た。昨日のイスラムスタイルは礼装の心算だったのかもしれない、眼が鋭かったのも、英語で挨拶したのも、初日は母国の威厳を保つためだったかも知れない、と思うと、一寸、気の毒な気がしたが、しかし、安心したわけではなかった。
 ミックス語の講義は問題無かった。東パキスタンの言葉は、文法的な構成の面で日本語と同じであるので、ミックス語がよく通じることは、現地代埋店が派遣した技術系幹部の養成教育の時に実験済みだった。日本語の話のなかに英語の単語をはめ込む要領で、可成解ってくれる。日本人の起源はレプチャ族という学説があるが、論拠は言語学的酷似から来ている。レプチャ族の居住地は東パキスタンのすぐ近くである。そのためか、パキスタン人の日本語会話の上達は早い。
| ジャリルとカーン | 09:51 | comments(0) | - | pookmark |